2022年2月に国の重要文化財に指定され、同年9月には開通60周年を迎える若戸大橋。今も重要な幹線道路であり、若松・戸畑両区のシンボルとして市民に親しまれています。そんな若戸大橋周辺はレトロな街並みが残り、歴史的な建造物や“映える”スポットの宝庫。潮風と港町情緒を感じながらの散策を楽しんでみませんか。
洞海湾に架かる、壮大で鮮やかな赤いつり橋。若松区と戸畑区を結ぶ若戸大橋は、2022年に開通60周年を迎えます。同年2月、日本の長大つり橋の技術的原点として、歴史的、技術的見地から重要であるとの評価から、国の重要文化財に指定されたことは記憶にも新しいでしょう。
若松区と戸畑区を結ぶこの橋が完成したのは、1962(昭和37)年のことです。巨額の建設費と国内技術の粋を結集し、約3年の歳月をかけて建設。つり橋部の全長は約627m、当時は「東洋一の夢のつり橋」と謳われました。
若戸大橋ができる前は、若松・戸畑間を直接つなぐ交通手段は船しかありませんでした。船以外の交通手段、すなわち橋やトンネルを求める機運が高まったのは、1930(昭和5)年に起こった渡し船の転覆事故がきっかけ。戦争で一旦は頓挫したものの、その後の高度経済成長期に車の利用が大幅に増えたことでさらに必要性が高まり、若戸大橋の建設は始まりました。
設計・建設にあたっては、国の土木研究所や東京大学の研究者なども加わり、当時の国の技術の粋が結集され、さまざまな調査研究が約2年半にわたって行われたといいます。「日本初の長大なつり橋を造る」という多くの人たちの情熱と努力によって建設された若戸大橋の経験が、のちの関門橋や本州四国連絡橋、レインボーブリッジなど、世界に誇る日本の長大つり橋建設に活かされています。
その威容は60年を経た今も変わらず、2018年には無料化を実現した若戸大橋。1日約3万台の車が通る北九州の交通の要として、また若松・戸畑両区のシンボルとして、今もなくてはならないものとなっています。
若戸大橋の完成と共に、若松・戸畑間の移動は車が主となりました。ですが、今でも洞海湾を渡る渡し船は市民の大切な交通手段として活躍しています。
若松区と戸畑区を結ぶ「若戸渡船」は、古くから市民の暮らしに欠かせない交通手段として活用され、“ポンポン船”の愛称で親しまれてきました。「通勤や通学で毎日乗っていた」と懐かしむ市民も多いのではないでしょうか。
若松・戸畑両区にそれぞれ渡場があり、各渡場からは片道約3分のクルージング。海から若戸大橋を見上げる壮大な景観は一見の価値あり!です。
住所:福岡県北九州市戸畑区北鳥旗町11-1(戸畑渡場)
福岡県北九州市若松区本町1-15-21(若松渡場)
電話:093-861-0961
料金:(片道)大人100円、子ども(幼児・小学生)50円、自転車50円
HP:https://www.city.kitakyushu.lg.jp/kurashi/menu01_0513.html
ユネスコ無形文化遺産・国指定重要無形民俗文化財である「戸畑祇園大山笠」(※注)で知られる戸畑区。そのなかでも、戸畑渡場近辺はフォトスポットとしても人気のエリアです。地元で受け継がれる名物グルメやお土産にぴったりの焼き菓子も要チェック!
「若戸渡船」戸畑渡場付近は、洞海湾に架かる若戸大橋を望むダイナミックな景色が魅力です。特におすすめのフォトスポットは、「お汐井汲みの場」辺りから望む洞海湾と若戸大橋。橋のたもと、大橋公園そばにある「お汐井汲みの場」は、ユネスコ無形文化遺産「戸畑祇園大山笠」の「お汐井汲み」が行われる場所です。
近くにはベンチが設置されており、船を待つ間に休憩する人の姿も。若戸大橋を眺めながら潮騒に耳を傾けていると、時間が経つのも忘れてしまいそうです。
※注 戸畑祇園大山笠の「祇」は、正しくは「ネ」に「氏」
住所:福岡県北九州市戸畑区川代2-2
戸畑でぜひとも食べてほしいグルメといえば、この地で生まれた「戸畑チャンポン」です。「戸畑チャンポン」の特徴は、一般的な茹で麺でなく、細くてコシのある“蒸し麺”を使うこと。この蒸し麺は、戸畑が日本一の遠洋漁業の基地だった80 年ほど前、長期保存可能な麺ができないかと開発されたのが始まりといわれています。細く茹で上がりが早い蒸し麺は、製鐵マンたちに好まれたそうです。
現在「戸畑チャンポン」は区内数店舗で提供されています。蒸し麺を使うこと以外はお店の自由であり、味や具材、こだわりはさまざま。なかには「戸畑焼チャンポン」もあるそうです。戸畑区では「戸畑チャンポンMAP」を制作しており、北九州市のHP(下記)からダウンロードできます。MAP片手に、製鐵マン御用達の味を巡るのも楽しそうです。
若戸大橋からは少しだけ離れますが、足を延ばしてでも味わいたいのが「LA DUGAREDUGN」(ダグリダ)のカヌレです。
店内に入ると、そこは店主のこだわりと感性が詰まった寛ぎ空間。洋服や食器、調味料などが並ぶ店の一角にはバーカウンターが設えてあり、香り高いコーヒーを味わうこともできます。もともと洋服のセレクトショップとカフェが一体となった「TIGERMILK BOUTIQUE SUITES」という店であり、その中にカヌレの「ダグリダ」が併設する形となっています。
手作りのカヌレは、かわいいひと口サイズ。「いろいろな味を食べてほしいので、bebe(ベベ=フランス語で赤ちゃん)サイズにしました」と矢野さんは微笑みます。外はカリッ、中はむっちりとした食感がなんとも魅惑的で、香りや甘味は実にふくよか。小ぶりでも満足感のあるリッチな味わいです。種類はバニラや宇治抹茶、カスタードピーチなど12種の中から日替わりで7~8種をラインアップ。箱のデザインも秀逸な8個セットは手土産に喜ばれること請け合いです。その日に焼いたものだけを販売するので、ほしい味があれば事前の連絡をおすすめします。
そのほか、北九州市内にあるコーヒーショップ数店とコラボしたドリップコーヒーパックを販売。若戸大橋やパンチパーマ、カッパなど、北九州ならではの絵柄に思わずほっこりさせられます。
住所:福岡県北九州市戸畑区中原東3-13-39ビレ3号棟1F
TEL:093-883-8221
営業時間:11:30~19:00
休み:火・土曜※8月31日までカヌレの販売は水曜も休み
かつて日本一の石炭の積出港として賑わった若松。特に若戸大橋周辺には、その頃の栄華を今に伝える建築物やスポットが点在し、歴史情緒あふれる街並みを形成しています。また、それらをただ残すだけでなく、生かすことで新たな価値を生み出しているのも特徴。若松は、“古くて新しいまち”なのです
戸畑から若松へ渡った先は、歴史情緒漂う港町。「若松南海岸通り」(通称:若松バンド)は、明治から大正にかけて石炭の一大積出港として繁栄した若松を象徴する建築物や史跡が残るエリアです。大正期の建物群を中心とした近代港湾都市固有の帯状の都市空間となっており、バンド特有の景観を残す港湾都市は、港湾機能を失った都市を除けば日本では若松だけとか。ノスタルジックな街歩きを楽しめる貴重な場所なのです。
住所:福岡県北九州市若松区本町
明治以降、石炭需要の増大や鉄道の開通、若松港の築港など近代化と共に国内有数の石炭集散地となった若松には、石炭関連会社や海運会社、商社、銀行などが軒を連ねていました。「旧古河鉱業若松ビル」は、そんなかつての隆盛を今に伝える建物の一つであり、「若松南海岸通り」のシンボルといえる存在です。1919(大正8)年の建造といわれるルネサンス様式の美しい建物は、この辺りに残る建築物のなかでも特に優れた意匠を持つといわれています。2006年には北九州市都市景観賞、2008年には国の登録有形文化財、さらに2017年には日本遺産「関門“ノスタルジック”海峡~時の停車場、近代化の記憶~」の構成文化財などに認定されています。
建物は前面道路の形状に合わせて平面が鋭角となり、道路が交差する隅の部分に3階建ての塔屋を配置。外観は縦長の窓、均等に配された付柱で垂直線を強調しています。レンガ造り2階建ての建物内部は誰でも無料で見学できます。また、2004年には保存改修工事を経て「交流・文化・観光」の拠点施設として生まれ変わりました。現在は多目的ホールや貸し会議室などさまざまな目的に利用され、市民の暮らしを支えています。
住所:福岡県北九州市若松区本町1-11-18
TEL:093-752-3387
営業時間:見学は9:00~17:00
料金:見学無料
休み:火曜、年末年始
HP: https://www.city.kitakyushu.lg.jp/shimin/27000095.html
「石炭会館」が建てられたのは1905(明治38)年。若松区内に現存する洋風建築としては最も古い建造物で、建築当初は若松石炭商同業組合の事務所として利用されていました。現在も企業の事務所として使用され、1階にはクロワッサンで有名な「三日月屋 若松店」が入っています。こちらも先述の「旧古河鉱業若松ビル」同様、日本遺産「関門“ノスタルジック”海峡~時の停車場、近代化の記憶~」の構成文化財として認定されています。
外観は竣工当時とは変わっているものの、木造2階建ての建物は石造り風の意匠でさすがの重厚感。小さなポーチを持つ玄関を中心に左右対称の形をしているのが特徴です。内部も当時は豪華な造りとなっており、会議室は組合員以外公私の会合に利用され、石炭関係者の社交場、クラブ、迎賓館として公会堂のような役割も果たしていたそうです。建物内部の見学はできませんが、玄関からは当時の面影を残す階段室を見ることができます。
住所:福岡県北九州市若松区本町1-13-15
営業時間:外観見学は自由
国の登録有形文化財に登録されている「上野ビル」(旧三菱合資会社若松支店)もまた、若松南海岸通りに立ち並ぶ歴史的建築物の一つです。1913年(大正2)年、筑豊の炭鉱の開発と鉄道の整備をきっかけに会社事務所を若松に移転した三菱合資会社によって建設され、設計者は三菱丸の内建築事務所の所長を経験した保岡勝也氏。若松に現存する洋風建築のなかでも、建築年代と設計者が明らかな事務所建築であり、石炭販売に関係した事務所や分析室、倉庫などの建築群が現存することから産業遺産としても重要です。
レンガ造り3階建ての本館は、補修が施されていない壁部分や窓まわりに当初のデザインが残されています。さらに必見なのは、中央部に吹き抜けの回廊を配したビルの内部。装飾付きの手摺、ステンドグラスを用いた天井など随所に豪華な意匠が散りばめられ、歴史を踏みしめるように階段を上がると、大正時代にタイムトリップしたかのような気持ちに包まれます。現在は上野海運株式会社がこのビルを所有しており、1階は上野海運株式会社の事務所、2~3階にはカフェやデザイン事務所などがテナントとして入居しています。
住所:福岡県北九州市若松区本町1-10-17
TEL:093-761-4321
料金:見学無料
HP: https://ueno-building.com/
レトロなドアを開けた先は、寛ぎと癒しのひと時を確信する空間。大正ロマン漂う「上野ビル」内の「ASA café」は、散策の合間にぜひ訪れてみてほしいカフェです。
「ここの雰囲気と景色が気に入って決めたんです」とこの場所にカフェを開いた理由を話すのは、店主の山本朝子さん。その言葉通り、ビルの3階にある店は窓から洞海湾を一望できる絶好のロケーション。店内に配されたテーブルやソファ、照明、アンティーク雑貨などのセレクトもこの「上野ビル」の雰囲気と見事に調和しています。
ランチタイムは、8種から選べる手作りのプレートランチが味わえます。「そぼろのバジル炒めごはんプレート」や「ロコモコ丼プレート」などがあり、スープとドリンク(平日のみ)が付き¥850。手作りのケーキ付きなら¥1150。フードは15時以降アラカルトでのオーダーとなります。
柔らかな日が差し込む窓から洞海湾を眺めていると、つい時間が経つのも忘れてしまいそう。恋人や友人、家族とはもちろん、一人でのんびり過ごすにもぴったりの癒しカフェです。
住所:福岡県北九州市若松区本町1-10-17上野ビル306号室
TEL:093-771-8700
営業時間:11:00~18:00(LO17:00)
休み:木曜
若松と戸畑を繋ぐ大動脈として、大切なシンボルとして、60年にわたって市民の暮らしを支えてきた若戸大橋。赤く、美しいこの橋をもう一度見上げてみませんか?